いつまで経っても秋が終わらない2022年11月16日、大阪府高石市の大鳥羽衣濱神社にお邪魔してきた。この地域には大鳥大社という有名な神社があり、大鳥羽衣濱神社はその摂社になる。摂社とは、本社となる神社にお祀りされている主祭神と縁故の深い神をお祀りした神社のことで、境内にある小さなお社もあれば、離れた場所にあって境外摂社とよばれるものもある。これにあてはめると、大鳥羽衣濱神社は大鳥大社の境外摂社という位置づけである。このあたりの説明は、神社本庁の解説(外部リンク:神社本庁Webサイト)が詳しい。
大鳥羽衣濱神社の宮司である山本さんと初めてお会いしたのは2005年。私のような小難しい性格の輩はさぞややっかいだったに違いないが、少し年上で懐の深い山本さんには些末なことのようで、以来ずっと仲良くしていただいている。この日は14:00ごろにお邪魔し、2時間ほど境内を撮らせていただきながら久しぶりに楽しいお話を聞かせていただいた。また、15:00から七五三のお参りに来られるご家族がおられるということで、洋服ではなく常装姿で出迎えてくれたのも幸運だった。
山本さんと境内で昔話や近況について話している間、ある方はお参りに、ある方はお散歩にと、地元の方がたくさんお見えになり、そのおひとりおひとりに笑顔で対応する山本さんの姿が印象的で、改めて地域に根ざし愛されるお社なんだと感じた。そこには1300年以上にわたりこの地にあり続ける当社の歴史的存在感はもちろんだが、現在宮司を務める山本さんのお人柄も大きく寄与しているのだろう。まさに歴史とは地続きなのだ。
やわらかな雰囲気の境内
境内を見回してみると、手水舎にはお花が浮かべられ、参詣者を出迎えてくれる。
本殿は先代宮司であった山本さんのお父様の時代に建て替えられ、すでに現代的な構造物となってはいるが、十分に歴史的建築物の佇まいを見せる。
周囲にはこれまで奉献されてきたのであろう酒樽や石灯籠が置かれ、地域の方々から寄せられる尊崇と長い歴史を感じさせる。
また、ご神木と思しき大樹と、社務所の玄関には、山本さんの奥様手作りの注連縄が飾られている。
注連縄作りは先代宮司のお父様直伝だそうで、本殿に飾られている大きなもの以外はすべてご自身で作られているそうだ。
残念ながらお父様は昨年お亡くなりになったが、小さな神社であるにもかかわらず地元の方々に愛され続けてきたこの神社の宮司であることにやりがいと生きがいを感じると笑顔で私に語る山本さんの姿を見て、安心なさっていることだろう。
そこにはもちろん、共に社務を支えるご家族の姿も含まれているのは言うまでもない。
散策
15:00になり七五三のお参りにご家族が来られたので、しばしひとりで境内を見て回った。
紅葉シーズンということもあり、毎日の掃除がたいへんと山本さんは話すが、こればかりは自然の理。
むしろこの時期に枯れ葉ひとつ落ちていないことのほうが不自然で、石畳の上を飾るアクセサリーだと思えばいいとさえ思う。
桜はずいぶん色付き、枝に残る葉も少なくなりつつあるが、楓はまだまだこれから色付いてくるのだろう。
境内には松もあり、松ぼっくりが転がっているのもかわいらしい。
本殿の脇には子ども絵馬を結ぶ場所がある。
七五三参りなどで参詣された子どもたちがそれぞれの願いや誓をしたためて吊るすそうだ。
このご時世なので、名前や住所などは書かないようにしてもらっているそうで、絵馬には子どもたちの純真無垢な願いだけが込められている。
本殿から振り返ると、おみくじの筒が置かれている。
人出の多い日にはここでおみくじやお守りを求める方もおられるのだろう。
あと一月半で年末。
初詣にはおみくじを引くカラカラという音をたくさん奏でてくれるはずだ。
お授け所の正面には正一位井戸守稲荷大明神が祀られている。
大鳥羽衣濱神社にはかつて深い井戸があり、海辺であるにも関わらず真水が湧き出す井戸として尊崇され、現在は手水槽がその跡地となっている。
古くから「井戸守」と呼ばれ親しまれてきたことから、この井戸に対する深い信仰が本社の始まりと考えられているらしい。
鳥居をくぐり奥へ進むと手入れの行き届いた小さなお社があり、今でも人々の信仰を集めていることが感じられる。
注連縄
日もずいぶんと傾きはじめた頃、境内の一角に人だかりができていた。
お邪魔してすぐに注連縄作りをしに来ましたという方がおられたが、そのグループの方々らしい。
近々浜寺公園で催行予定のイベントで注連縄作りをされるそうで、その準備として、注連縄用の稲の下処理をしておられるとのことだった。
山本さんが丁寧に注連縄用の稲藁の下処理について説明し、グループのみなさんでその作業にあたっておられた。
下処理といっても煮たり焼いたりするのではなく、とにかく叩いて叩いて剥がれ落ちるものを取り除き、稲藁を柔らかくしていく作業だ。
なかなかに根気と体力を使う作業なようで、黙々と一心不乱に作業しておられたが、お手伝いに来ていた子どもたちはなんとも楽しそうに笑っていた。
その後ろでは、どういう経緯でやってきたのか信楽焼と思しき狸と、かつて地元の有志が設置したのであろう遺跡の表示が境内の様子を静かに眺めていた。
別れ際
帰る前にもう一度正面大鳥居の方から入り直して本殿に向かった。
ゴールデンアワーにはまだ少し早い時間帯であったが、黄金色の光線が参道を照らし、脇にはのぼりが揺れている。
11月は七五三シーズン。
まだ月半ばとはいえすでに多くの子どもたちと我が子の健やかな成長を願う親御さんたちを出迎え見送ってきたのだろう。
改めて境内を奥へと進みながら考える。
子どもは国の宝だ。
日本の大人のひとりとして、日本の子どもたちの健やかな成長を祈らずにはいられない。
手水舎を見て改めて時刻に気付く。車へと戻る途中に桜の枝に結ばれたおみくじを見つけた。
この地で育った子どもたちがやがてここでおみくじを結ぶ。
それを繰り返してきたからこそ、このあたたかなお社は1300年の長きにわたり地域に愛されてきたのだ。
使用機材
- Nikon Z 9
- Nikon NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
- Profoto A1
- Profoto Air Remote TTL-N
- SUNTEC 802 SPニューライトスタンド
- Godox S2ブラケット
- Aputure Light Dome Mini II
大鳥羽衣濱神社(外部リンク)